独特の芳香と甘味が味わえる食用菊「阿房宮(あぼうきゅう)」

青森県南部地方に古くから伝わる食用菊「阿房宮あぼうきゅう」。目にも鮮やかな黄色い花びらは苦みが少なく、独特の芳香と甘味が味わえます。生食はもちろんのこと、蒸して乾燥させ、シート状にした干し菊は保存がきくため、1年を通じてさまざまな料理に活用できます。

独特の芳香と甘味が味わえる食用菊「阿房宮(あぼうきゅう)」

東北地方では、菊は脇役ではなくメイン食材!

阿房宮あぼうきゅう」という美しいネーミングは、その昔、秦の始皇帝が菊を愛でたという宮殿の名前に由来しています。一説によると、江戸時代に南部藩主が京都の九条家から譲り受け、相内村(現・南部町)で栽培したところ非常においしかったことから、食用として藩内に広めたと伝えられています。
一般的に食用菊というと、刺身などに添える「つま菊」のイメージが強いかもしれませんが、東北地方では菊の花びらを野菜の一種として食べる習慣があり、料理のバリエーションも豊か。晩秋の南部地方を彩る風物詩です。

名久井岳を望む阿房宮(あぼうきゅう)の畑を訪ねて

南部町で阿房宮あぼうきゅうを生産している和田進さんの畑を訪ねました。紅葉に彩られたのどかな里山と名久井岳を望む5アールの園地では、阿房宮あぼうきゅうが競うように美しい花を咲かせています。「毎年10月下旬から収穫を始め、収穫期はだいたい2週間ぐらい。霜にあたると変色して売り物にならなくなってしまうので、霜が一番の大敵です」。日々、天気予報を気にしながら翌朝霜が降りそうな時は、霜よけの白いシートをかぶせることもあるといいます。

和田さんは、リンゴ、モモ、ゼネラルレクラークなどの果樹栽培を行なっており、果樹の作業が一段落した頃に阿房宮あぼうきゅうの収穫に取りかかります。「今年は、花が大きくて形のきれいなものが多いんですよ。だから、加工に回さずに、生で出荷する量が多いかもしれない」と、目を細めます。「満開になった阿房宮あぼうきゅうは、こうやって鎌で刈り取るんです」と言って、ギザギザの刃のついた鎌を見せてくれました。生で市場に出回るのは約2週間。生で出荷する以外は、花びらをむしって蒸した後、円形、または長方形の形に広げて乾燥させ、干し菊として出荷しています。

「阿房宮(あぼうきゅう)」で食卓に彩りを~おすすめの食べ方とコツ~

阿房宮あぼうきゅうは、香りが豊かなので味噌汁や鍋に入れると、さらに香りが引き立つんですよ」と、和田さん。おすすめの食べ方は汁物だといいます。完成間際、花びらを散らすだけ。華やかな見た目が加わって、おいしくいただけます。
また、最近はあまり家庭で作られなくなってきたものの、がくを取らずに花の形のままで天ぷらにすると、おもてなし料理にもぴったりな一品になるそうです。また、この地域ならではの伝統的な料理は「菊巻き」。一夜漬けしたダイコンやニンジン、タカナなどを菊で巻いた、カラフルで見た目にも美しい漬物です。

和田さんによると、干菊は戻し方がコツとのこと。「ぐつぐつ煮ると風味が損なわれるので、さっとゆでるのがポイントです」。
お酢との相性も良く、さっと湯がいて水気を絞り、ダイコンおろしと混ぜて二杯酢などで和える「菊なます」も絶品。シャキシャキした食感が味わえます。

あっさりとした風味はどんな料理とも相性が良く、鮮やかな黄色は料理を引き立て、食欲をそそります。加熱しても美しい色合いが変わらないのもうれしいところ。

寒さが増すこの季節、干し菊をひとつ常備しておくだけで手軽に使用でき、カラフルな色彩が食卓を華やかに彩ってくれます。

「阿房宮(あぼうきゅう)」を購入できる場所

南部町
  • 名川チェリーセンター
  • なんぶふるさと物産館 など

今回お話を伺ったのは

阿房宮 あぼうきゅう の生産者

和田 進さん


(2020年11月)

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