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消費地レポート 静岡大学農学部准教授 松本 和浩 氏

第110回

静岡大学農学部准教授 松本 和浩 氏

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【松本 和浩 氏 プロフィール】

1977年静岡県生まれ。2016年10月より静岡大学農学部准教授。
鳥取大学農学部出身。大学ではニホンナシの台木の研究を行い、途中イスラエルで砂漠におけるくだもの栽培の研究も行う。博士(農学)の学位取得後、韓国国立忠南大学校で1年半の研究員生活も経験。2008年4月~2016年9月まで弘前大学農学生命科学部附属生物共生教育研究センター助教。果肉の赤いリンゴ「紅の夢」など、リンゴ新品種の育成や栽培研究に従事。消費者と生産者を繋ぎ、よい園芸生産物でみんなが幸せになれる社会の形成を目指している。

 前回、4月掲載の記事が好評だったからなのか2回目の原稿依頼をいただきました。うれしいです。今回は海外から見た青森県の農業、食がテーマということで、幸せの国「ブータン」の話題を取り上げたいと思います。

 我々(弘前大学)はブータンにおけるリンゴプロジェクトとして、2016年3月よりJICA(国際協力機構)が主催する草の根技術協力事業の委託を受け、弘前市と共同で「リンゴの生産、生産性および加工技術改善のための人材育成と新規技術の導入」をおよそ3年間の予定で行っています。この事業は両国における市民レベルでの交流の活性化と、現地の生活環境の向上を目的としており、日本の地域が有する技術を生かして両国の交流のきっかけを作るものだと思っています。

 

ブータンの農林省の職員青森リンゴに感動

 弘前市からはすでに4回の訪問団がブータンを訪問し、リンゴの苗木の生産方法や剪定や摘果の方法の指導、シードルやリンゴ加工品の製造の方法を伝授しています。一方、ブータンからも農林省の試験場や普及所の職員、大学の先生を中心に3回の訪問団が弘前市を訪れ、日本の進んだリンゴ栽培や加工の技術を学んでいます。私もプロジェクトの一環で2017年の6~7月にかけておよそ一月半の間、ブータンに滞在しました。
  プロジェクトの本体であるリンゴに関する報告は報告書の形にまとめる予定ですので、いずれ報道等で青森の方の目に触れる機会もあると思います。そこで、本稿ではリンゴ以外のブータン市民の生活の中の食を中心に報告し、交流やタイアップの参考にしていただけたらと思います。

ブータンと宗教


 

首都ティンプーにある仏塔、
時計回りに3回真言を唱え
ながら巡る

 ブータンはチベット仏教を国教とする唯一の国家です。チベット仏教は密教の教えで、日本では空海の真言宗の教義に最も近いです。詳細については私も理解していませんが、「現世における実践」に重きを置き、各々が仏の分身として認め合い、世の中を良くするためにいかに貢献できるか,ということを大切にしているような気がします。
 ブータンにはお墓がありません。焼いた後の灰は粉にして川に流したり、土と混ぜて小さな仏塔を作り、あちこちにあるパワースポットに置いたりします。死んだらすぐに生まれ変わるので、お墓は必要ないというわけです。ほぼ全員が再びブータンに人として生まれ変わることを望んでいますが、この世での行いが悪いと、大変な国の人に生まれ変わったり、人間以外の動物や昆虫、いわゆる畜生に生まれ変わったりします。ですから、すべての生き物を知人の生まれ変わりかも知れないと考え、殺生を厳しく戒めています。私も、蚊をひっぱたいて白い目で見られたことがありました。
  そのようなこともあり、ブータンでは国を挙げて有機栽培の推進に取り組んでおり、リンゴを栽培指導するうえでも農薬を極力使わないよう配慮する必要があり、難しい対応を迫られています。

お寺とお供え

 ブータン人の休日の楽しみはピクニック。山の上のお寺などもよく訪れます。高校生や大学生でも友達同士で山(といってもスタートが標高2000m以上なので3000~4000m近くまで歩いて登る)に行き、どんなにやんちゃな子でもお寺に入れば五体投地をして,礼儀正しくお祈りします。その時に持って行くお供え物のひとつが「カプセ」といわれる素朴なお菓子です。小麦粉と砂糖を混ぜて作った生地を美しい形に編み上げて油で揚げてあります。街の商店でも買えますが工場で作ったようなものではなく、街のおばちゃんの手作り。家庭で作るのが基本のようです。

家庭で作ったカプセ

お店で売っているカプセ

弘前の縄かりん糖

  これが、形も味も弘前で作られている「縄かりん糖」にそっくりなんです。私は、素朴な味が好きで、よく青森からのお土産にしていたのですが、ブータンでそっくりな物に出会って本当にびっくり。しかも、仏様へのお供え物としても使える縁起のいいものだと聞けばなおさらです。ヒマラヤの足下で生まれた仏教はシルクロードを通って日本にやってきました。日本の北の端、青森との関連は定かではありませんが、異なる文化を持つ国民が、異なる場所で同じようなお菓子を食べながら家族団らんし、幸せを願っている…。なんだか素敵な姿です。


餃子に焼きそば

ブータンの基本的な食事はお米です。日本人の指導により改善された稲作でできたコメはきっといいのでしょうが,精米が良くないようで炊いたご飯はあまりおいしくありません。私の滞在中はネパールに起源をもつといわれるチャウメンと呼ばれる焼きそばや、モモと呼ばれる蒸し餃子をよく食べました。写真を見ていただくとわかるように、パッと見たところは日本のそれと変わりません。こんなところでも、シルクロードを通じた両者の繋がりを見て取れて、面白く感じました。
 殺生を戒めていることからベジタリアンも多いです。厳しく菜食を守っている人もいますが、たまごは良かったり、海外に行ったときは肉を食べてよかったり、と「肉食はなるべくしない」と考えているようなおおらかなベジタリアンが多くいます。ですので、レストランのメニューも肉を使わない、たまごチャウメンや野菜チャウメン、チーズモモに野菜モモ等々,ビーフやチキン以外の選択肢もありおいしく食べられます。日本に比べ肉の臭さが目立つことから、私もたまごチャウメンやチーズモモをよく食べました。ただ、しっかり加工したヤクという高山に住む水牛のような動物の肉は濃厚でとっても美味しかったです。

野菜チャウメン

チーズモモ(左)とビーフモモ(右)



 

現在、弘前で実習中のブータンの国立リンゴ
試験場の職員ドルジ君

 まだまだ紹介したいことはたくさんありますが紙面が限られますのでこの辺りで。文化を異にする市民同士の交流の基本は食をシェアできるかにかかっていると思います。その土地の文化を反映した「食」はよそ者にとっては、五感全てで感じられるその土地そのものといっても過言ではありません。私も、青森に来たての頃、甘い赤飯や茶碗蒸し、真っ赤な稲荷寿司を食べて、心から驚き、感動したのをよく覚えていいます。食の類似、相違を通じでその土地の歴史や気候、文化の背景を知り、それらへの興味を醸し出していく…。そんな、工夫を仕組んだ商品の開発、それらをきっかけとした観光客の誘致、地域に普通にある既存のものを地域外と結び付けて広がりを作るといった視野の拡大が、これからの時代必要になるのではないかと思っています。

 現在、2018年3月までの予定で一人のブータン人の若者が弘前に滞在し、リンゴ栽培や加工の方法、日本の文化を学んでいます。ブータンに興味のある方はぜひ、弘前大学に問い合わせ、対話をしてみてください。 -




情報掲載:2017年12月15日



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